バタン!
扉を勢いよく開け、目標をロックオンするように目を追いかけて、一人で歌う彼を凝視した。
「こんにちわんこそば~」
彼は俺のアメリカンジョークに口を開けたままぼーっとしている。
どうやら業界用語は彼にはまだわからないらしい。
「あの~誰っすか?」
「みぃ?のことかい?みぃはアイドルのスカウトやってる平串末吉っていうんだ!よろしくな!!」
俺はマクド○ルドの店員もお金を出したくなるような満面のスマイルをあげたつもりだった。
「そ、そうですか。じゃあ俺は帰るんで」
彼はちょっと考えてからそういうとそそくさとその場を立ち去ろうとした。
「ま、待ってください!!」
俺は慌てて彼の腕を掴んだ。
「なんなんですか?」
彼は明らかに厄もの扱いな目で俺のことを見ていた。
だが俺はあきらめないスカウトは粘り強さが肝心なのだ。
「ゆーに話したいことがあるんだよ」
「僕にですか?」
「そうそう、ゆーアイドルになってみない?」
こいうのは単刀直入にきいてしまったほうがいい。
「アイドル?」
「そう、アイドル!ゆーの声に惹かれてね!」
「僕の声にですか?」
おっ、ちょっと彼の表情が変わった。
声を褒められたのがうれしかったのか?
「どうだい、歌えるアイドル目指さないかい?」
「・・・やめときます」
「そうだよね!そうと決まればすぐに手続きを・・・っておい!!」
こんなノリツッコミをしたのは何年ぶりだろうか。
「なんで即答でやめるとかい言っちゃうんだYO~。」
ノーと言える日本人かYO~。
「僕、歌とかうまくないんで」
「何を謙遜してるんだい!ゆ~。君の歌声は素晴らしかったYO~」
「お世辞とかいいですよ、僕そんなに声でないし」
「やっぱり高い声でないことを悩んでるんだね」
「どうせ聞いてたんでしょ、僕声裏返えちゃうんですよ、音域狭いから。」
「なるほど、じゃあ音域を広げてあげればいいんだね」
「え、どいうこと?」
ではこれの出番ですね。
そう思った俺はカバンからひとつのスプレー缶をとりだした。
「なんですか、急に」
「ちょっと失礼するよ」
俺はそういって彼の首に、もといのどにスプレーをかけた。
「な、なにを」
彼は慌ててのどを手で押さえる。
「うわっ、なんだこれ、のどが」
「ふふふ、このスプレーはどんな物質でもスライムみたいな柔らかさにすることができるんだYO~。
それでは失礼するYO~」
「失礼するよって、なにをする気だ」
「ちょっとのどをいじるだけだよ」
「やめぇあっ・・・」
俺はスライム化した彼の首を透き抜けて喉の奥に手をつっこんだ
「へぇ、なりぃをしてるんらぁ(何をしてるんだ!!)」
「さてどこかな、これかな?」
俺がそれをやさしく握ると彼は声を漏らす。
「なりぃを?ふぁっ!!?(何を?ふぁっ!!?)」
どうやらここらしいな、のどちんこ。
「そ↓こは↑らめぇぇ~~~↓」
「こんなかんじかな?いやこうかな?」
のどちんこをいじると彼の漏れる声の高さが変わる。
まるでラジオのチャンネル番号を合わせているようだ。
「やめれぇ↑・・・これ↓いよょう↑はもう↓(やめろ!これ以上はもう)」
「ふむ、このくらいでいいかな?ちょっと高すぎて女の子みたいな声になちゃったけど」
「ゲホゲホ、ホントなにしたんですか?」
「ゆ~の声を高くしてあげたんじゃないか」
「え?あ~あ~・・・・!?ホントだ高くなってる」
「だろ?ちょっと高くしすぎたけど」
「・・・あなた一体何者なんですか?」
彼が、俺が何者か的なことを尋ねてきたみたいだが耳に入ってなかった。
なぜなら俺は彼の声と見た目の違和感が気に入らなかったからだ。
「う~ん・・・そうだ!この際だから下のちんこもいじって無くしちゃおう」
「え?ちょっと人の話聞いてました?」
俺は思いついたら突っ走るタイプで全然話を聞かずスプレーを取り出した。
「よし、この際だから全体的に変えちゃおう」
「へ?」
俺はおどけた顔した彼の顔から足にかけてまんべんなくスプレーをかける。
「うわ、やめろ」
彼は手で体多い隠し抵抗するがほとんど意味もなく体全部に霧が吹きかかった。
そしてみるみる身体はプリンのような物質に変化していた。