まだ起きたばかりのようで誰かをにらみつけるように目がほっそりさせている。
髪の毛もだらしなく横のほうがちょろんと、跳ね上がっている。
しかし俺がリモコンに手をかけるようとすると獲物を捕らえるがごとく父の手を制止させリモコンを奪う。
「おい、何するんだ、見たい番組でもあるのか?」
「・・・・・・。」
「珍しいな、お前部屋でパソコンばっかりでTVなんてみないと思ったのに。」
「・・・・・うん。」
最近、息子が娘よりも俺のことを無視している気がする。
きっと俺のことなんか虫ケラかなにかと思ってるんだろうか。ムシだけに・・・。プッ。
「ねぇねぇ、お母さん親父がキモい顔してるんですけど。」
娘はどうやら父親の思いつき笑いをみていってるらしい。
「そうね、気にしちゃだめよ」
妻もフォローを入れるのがめんどくさくなっている感じだ。
だがこの俺はこの程度ではへこたれません。
そうこうしているあいだに次の番組が始まった。
『「12人でプリティキュアキュア!!ハジマルヨ♡」』
・・・あれ?
チャンチャンチャンチャンチャンーーーチャチャチャカー♪
オープニングの音楽が軽やかに流れる。
「おい、これ子供向けじゃないか、しかも女の子がみるやつじゃないか」
「うん・・・そうだね」
「そうだね・・・って」
あいかわらずそっけない言葉しか返さない。
「お兄ちゃんヲタだもん、仕方ないよ」
「今流行りのマンガオタクってやつね」
「ちげぇよ、マンガじゃねぇよ、アニオタつってるんだろ、クソババァ!」
「こら、母さんのことクソババぁとかいうじゃない!」
「ちっ!」
俺が叱ると意外に素直に言うことを聞いてくれる。
一方、母さんのほうは全然気にしてないようだ。
なぜかヲタクと言う言葉には過剰なまでに反応する我が息子(俺の一物じゃないぞ)。
昔はお兄ちゃんの方が仮面ライターをみて俺を怪人にみたててライターパンチや、ライターキックしてたりして楽しそうにしてたのにな。
いや、しかしながらマンガとアニメとどう違うのかよく分からんが今ここで同じ質問をして息子を逆なですることはやめようと思う。
今も楽しそうにTVを見ている。
人の趣味は変わるのもの。
ここは大人になって人の価値観を尊重しようじゃないか。
ある国では男性でもスカートを履く民族があるらしいし、男がプリティなんとかを見てキュアキュアしたって別にいいじゃないか。
と自分に無理な納得させようとした。
しかしながら確かにTVを見ている息子は楽しそうだ。
特にこのアニメに出てくる女の子達がなんかに変身しているときとか目が輝いている。
「お兄ちゃん、顔をひきつっててキモいんだけど」
いってやるな妹よ!!
息子は少し凹んでいるようだった。
がしばらくしてアニメのほうが新しい展開になり、また笑顔を取り戻した。
よかった、よかった。
なぜ戦う女の子達が敵にボコボコにされているシーンで笑顔を取り戻したかはこの際考えないでおくが。
そして女の子達がなんやかんや熱い精神論を語りだし最後に必殺技を決めた。
『「ウルトラ コングラチュレーションだね♪」』
主人公格の女の子が決めゼリフをいうとエンディングを迎えた。
息子はなんとなく儚げな顔している。
そんなに終わるのが寂しいのだろうか?
「そろそろチャンネルかえていいか」
「ちょっとまって」
そいうと息子はTVに設置してあるDVDデッキに近づいた。
うん?
息子はデッキにあるDVDを取り出し100均で買ったであろう透明のケースにしまいこんだ。
「もういいよ」
そういって自分の部屋にもどっていく。
「朝ごはんは?」
「いらない」
止めようとする頃にはすごい勢い階段を登ってで部屋へと消えていった。
なんだったんだあいつ・・・。
「あいつさっきの録画してたんだったらわざわざ見に来なくてもいいのに」
「リアルタイムでみることに意味があるんでしょ」
妹が珍しく兄の擁護をしている。
「いいじゃない、それだけ夢中になってるんでしょ」
母はもはやなんでもいいといったところか。
しかしさっきは人の価値は自由だといったが見る番組が兄と妹とあべこべな気もするのも事実。
できれば男の子には男の子らしい趣味を、女の子には女の子っぽい趣味持って欲しいものだ。
「お前ら、見る番組逆じゃないか?」
妹の方に何気なく問いかけてみた。
「どいう意味?」
「なんていうか、お前も女の子なんだから女の子っぽい番組とかみればいいんじゃないかと思ってな」
「別にいいじゃん。何見たって。」
娘はすぐに反論した。
まぁ最もなんだが・・・
「でも、たまにはお兄ちゃんがみてるようなかわいいやつとか!・・・そうだ、お前と兄ちゃんの趣味を交換したらどうだ。」
適当に言った一言だった。