彦星は簡単なトリュフを作ることにした。
チョコをまず細かく刻むことにした。
包丁は自分の飯を作るために何度も使っていたので使い慣れてはいた。
しかし思ったよりチョコが固く苦戦した。
「う~んチョコを刻むのって難しいんだな・・・あっ」
つい力を入れすぎてしまったのがいけなかった。チョコが動かないように押えていた人差し指を切ってしまった。
やばと思い反射的に血をとめるため自分の指をくわえた。
・・・・
「あれ、これって織姫の指だよな・・・」
そう考えた瞬間また胸がはじけるように鳴り出した。
後悔なのかうれしいのか分かない感情が渦巻く。
「いや、まぁ不可抗力だし・・・ね」
自分にいいわけするする彦星。
しかしこんな姿をあの神様に見られたらなんといわれるか・・・。
あいにく指はそんなに深く切ってはいなかったようだが念のため包帯だけ巻いておいた。
しかし胸の高鳴りはおさまらないまま調理を続けていった。
鍋に生クリームを入れ釜戸に薪を加えながら火をつけた。
いつもより息がでず火をつけるのにも一苦労した。そして沸騰させた生クリームに刻んだチョコを入れた。
そして大きな木のへらを小さな手のひらでつかみかき混ぜた。
だんだんとクリームのようになめらかになったら風通しのよい涼しいところにおいて冷やした。
ときおり織姫の喜ぶ姿を想像しながらへらへらしながらへらでまた混ぜたりした。
だいたい固まったらスプーンですくってシートの上に同じ大きさのものを並べていった。
そして氷の冷蔵庫にしまいしばらくの間冷やすことにした。
その間にコーティング用に湯せんで余った刻んだチョコを溶かしておいた。
冷蔵庫にしまったチョコを取り出しひとつづつ解けないように冷やした手のひらで団子状に丸めていった。
小さな手のひらのおかげで思ったより少し小さいかわいらしい団子ができた。
そして湯せんで溶かしたチョコをてのひらにつけコロコロと先ほどの団子にコーティングしていった。
そして仕上げにバットに入れたココアの中で表面にココアをまぶして、
はいできあがり。
ふぅ・・・。
なんとかできあがった。
彦星もそんなに料理は得意なほうではないが無難にそれなりの見栄えのものを作り終えることができた。
試しにひとつ食べることにした。
「はむ・・・」
口をはしたなく大きくあけてひとつを一口で食べた。
「げほ、げほ」
思ったより口の中では丸々ひとつというのは大きかったらしく咳き込んでしまった。
というよりは口が思ったより開かなかったんだろう。
しかしけっこうおいしかった。
甘すぎる気もしたがちょうどいい気もした。
彦星は最後にお椀の器に盛り付けた。
「うん、これなら織姫も喜んでくれるだろう」
「おい、彦星!そろそろ時間じゃ」
またも突然神様が背後に立っていいた。今回は雲に乗っていない。
「あなたはいつも突然あらわれますね!」
「そんなことよりそろそろ術が解けるころあいじゃ」
「もうそんな時間ですか」
そういって窓の外を見るともう日が暮れそうだった。
「では最後に一言置手紙だけ!」
彦星は近くにあった紙切れに
「織姫へ、僕からのバレンタインデープレゼントです。どうぞ食べてください 彦星」
と書き込みチョコの入った器を文鎮にして挟んでおいた。
「じゃあ元に戻すぞ!」
神様はそういってまたあのわけの分からない念仏を唱え始め、杖をふった。
僕は杖を向けられたと同時にまた眠りについた。