「とにかく余計なことを考えないことね」
「へいへい」
確かに俺が何もしなければ向こうは勝手に
話したり動いたりする。
多少不審な目でみられることはあるものの
なんとか普通の女の子と会話成立させている。
どうやら向こうの体にも記憶が残っているらしく
それを元に俺の右腕がさやかになりきっているみたいだ。
「ところで昨日のTVのNステみた?○○君の歌かっこよかったよね~」
「ああ、まぁね!でも△△さんの方が渋くて歌もうまくてかっこいいよ」
「え?さやかちゃん?あれ演歌歌手だよ?さやかちゃん演歌なんて好きだっけ?」
「うん、演歌って奥深くていいよね、
あのこぶしに利かせ方はあの人にしかできないよ」
「そ、そうなんだ」
というようになんとかやっているようだ。
「なんとかなってないじゃない!」
いいながら俺は俺の頬をつねる。
「痛いって。なんとかそれっぽく会話してるじゃなぇか」
「私のイメージダダ崩れじゃないの」
「いやお前のイメージとか知らんから」
そう、正直こいつのことなんかほんとに知らない。
興味があるのは2次元と今こいつの体としゃべっている翠のことしか興味がない。
「(ほんと翠ちゃんかわいいな...ていうかおっぱいでけぇ~)」
「ほんと翠ちゃんかわいいな!ていうかおっぱいでけぇ~!!」
「ちょ、ちょっと!?さやかちゃん急に何言いだすの?」
やばい、つい俺のピンク色の妄想がもれてしまった。
俺の思考をそのままにさやかの口にしゃべらせてしまったのだ。
そして案の定顔面を殴られた。
「バカぁ!何やってるのよ!早く謝らせなさい!!」
「わかった!わかったから!!」
このままでは俺の顔面がもたない。
俺は謝罪の言葉を絞り出した。
「(ごめん!じゃなくてごめんなさい!ついというか、うっかりというか)」
「ごめん!じゃなくてごめんなさい!ついというか、うっかりというか」
俺の言葉をコピー&ペーストするようにそのまましゃべりだす。
「え?うっかり?」
「(うっかりっていってもあれだ!あれだよ!
さやかは...じゃなくて俺...じゃなくて私って胸が小さいからさぁその
うらやましいなぁと...hahaha)」
「うっかりっていってもあれだ!あれだよ!
さやかは...じゃなくて俺...じゃなくて私って胸が小さいからさぁその
うらやましいなぁと...hahaha」
アメリカンジョークっぽく笑ってごまかそうとしてみたがなんともぎこちない。
「そ、そうなんだ。」
「悪かったわね、胸が小さくて」
右腕というものに当然表情はないがなぜか
そこには言い知れぬ殺気が纏っているのが分かった。
そして有無も言わさず俺の腹に自分の右腕がめりこむ。
「(ぐほっ)」
「ぐほっ!!」
さやかの顔は痛そうな顔をする。
「ど、どうしたのさやかちゃん!?」
痛みまでリンクしてしまったようだ。
「(大丈夫だから...)」
「大丈夫だから...」
なんとか取り繕うと必死に言葉を紡ぎだした。
「なんか今日のさやかちゃんおかしいよ?あっ?もうすぐ時間だ!
さやかちゃん何かあったら言ってね。相談に乗るから」
天使のような笑顔で言いながら翠は自分の席へと戻っていた。
「やっぱり翠は優しくていい子だな...」
「キモっ」
俺は右腕さやかに言われたように顔をニタニタさせていた。
するとさやかの体の方の表情も緩んでいた。
ただ女の顔のせいか向こうの方がほんわかした表情をしている。
なんとも男女の損得を見た気分だった。